【THE LAST OF US】時に物事はうまくいかない。シーズン1第9話感想

実写版ラスアス感想 アイキャッチ

サバイバルアクションゲーム『The Last of Us(ラストオブアス)』の実写ドラマ『THE LAST OF US』の9話を見た感想。

感想というより、「このシーンはこういうことだろう」という掘り下げが中心です。

ドラマのネタバレあり。

エリーになぜ免疫があるのか

エリーになぜ免疫があるのか。

ゲームでは明かされなかった詳細がドラマ版では語られる。

エリーの出産時に母親アンナが感染者に噛まれたため、エリーは寄生菌と共に育った。

寄生菌は伝達物質を出し、ほかの寄生菌にエリーが仲間だと伝えている。

だからエリーには免疫がある、ということらしい。

たしか2話あたりで、寄生菌が根のように張り巡らされてほかの感染者に情報を伝達する場面があった気がする。

アンナが逃げ込んだ部屋の壁には木が描かれていて、アンナが出産した場所はちょうどその木の根にあたる場所だった。

何気ない背景がエリーと寄生菌の関係を暗示しているようで、細かいところまで凝っている。

あと、アンナのうめき声がゲーム版エリーの声にそっくりだなと思っていたら、本当にゲーム版エリーの役者さんだった。

かつてエリーを演じたアシュレー・ジョンソンが、生まれたてのエリーに母として愛を注ぐシーン、とてもよい。

ジョエルとエリーの目的の相違

前話から数か月単位で時が過ぎた。

エリーはもう厚い上着を着ておらず、ジョエルはあれだけ拒んでいたサラの話題を出せるようになっている。

目的地に近づくことは、ふたりの旅の終わりを意味する。

病院に着くまでに、また感染者やら人間やら脅威が襲ってくるかもしれない。ワクチンを作ること自体、エリーにとって安全なのかも分からない。

そう思うからジョエルは「トミーの町に戻ってもいい」と話す。ジャクソンなら安全だから。

しかしエリーは、今までのことを無駄にしたくないと、目的を果たす意志を伝える。

今までのこと。

それは険しい道のりのことだけでなく、ライリー、テス、ヘンリーとサムなど、目の前で犠牲になった人々のことも含まれる。


生きていく上で、ジョエルとエリーはお互いなくてはならない存在だけど、ふたりが何を生きる目的としているかは同じではない。

エリーの生きる目的は、自分の免疫で救える命を救うこと。

ジョエルの生きる目的は、エリーが無事でいること。

ファイアフライの病院に行くという表面上の目的は共通しているものの、その裏にあるふたりの気持ちは別の方向を向いている。


口数が少なく元気のなかったエリーは、キリンを見て本来の明るさを垣間見せた。

キリンは誠実、平穏、やさしさの象徴だという。

この時点でのジョエルとエリーの関係は、その象徴どおりだったかもしれない。

ジョエルとマーリーンの共通点と違い

言葉にはしなかったが、マーリーンはジョエルと同じくらいエリーのことを大切にしていたのだと思う。

マーリーンはエリーのことを産まれたときから知っており、エリーの母アンナともかなり近い間柄だった。

それだけでなく、マーリーンもエリーと同じように、感染した友人を撃つという経験をした。

友人の娘であり、自分と似た体験をしたエリー。

マーリーンがエリーに寄せる思いは、人知れぬ深い愛情と共感で満ちたものだったかもしれない。


エリーを大切に思う者どうしであるジョエルとマーリーンの決定的な違いは、自分の気持ちを優先したかどうか。

マーリーンはさらに多くの命を救うため、エリーを犠牲にする道を選ぶ。これはエリーの目的とも一致している。

一方ジョエルは、自分の心を守り他者を犠牲にする道を選ぶ。

サラを失ったジョエルは、かつて自死しようとしていたことが今回明かされた。

娘を失うことは、ジョエルにとっては生きる意味を失うことに等しい。

娘を守るためならどんな非道なことでもするジョエルだが、ジョエルが本当に守りたいのはエリーではなく自分の心なのだろう。


また、ジョエルとマーリーンの違いでもっと重要なことは、エリーの意見を聞いたかどうか。

マーリーンはエリーの同意を得た上で手術に踏み切っているはず。

しかしジョエルはエリーの考えを聞いていない。

エリーはずっと、ワクチンがあれば救えたかもしれない人々のことを思っている。

もしマーリーンが手術前にエリーがジョエルと話す機会を与えていたら、まったく違う結末になっただろうけれど、おそらくマーリーンはそんな必要ないと判断した。

ジョエルもマーリーンも、この世で一番エリーを大事にしているのは自分だと考えている。

でも、ジョエルにマーリーンの気持ちが分からなかったように、マーリーンもジョエルがどれほどエリーを大事にしているか分からなかったのだと思う。

私たちの最後

シーズン1のラストシーンはゲーム版と同じ。

エリーに話したファイアフライのことはすべて真実だとジョエルがエリーに誓い、エリーは「Okay」と答える。

ジョエルはエリーの前では人間性のある父親でいたいから、嘘を貫き通すしかない。

病院で邪魔者を排除し、手術をやめさせ、無抵抗の人やマーリーンまでも殺したのは盗賊だということにして、エリーと今までどおりの関係を続けようとする。


エリーはジョエルのことを信じたい一方で、ジョエルの話が本当なのか確証が持てない。

基本的にエリーのOkayは「あなたの言ったことは分かった。信じたわけじゃないけどね」だと思う。

ジョエルにとってエリーは何にも替えがたいと、エリー本人は理解している。それこそ、実の娘を失った傷を癒やせるほどの存在なのだということも。

同時に、ジョエルには罪のない人を殺せる暴力的な一面があることもエリーは知っている。

エリーを助けるためにジョエルが何かしたのではないか、ジョエルが何か隠しているのではないか。

賢いエリーがそういった点を考えないわけがないのだ。


マーリーンを含む病院のファイアフライがみんな死んだこと。

多くの人が救えたかもしれないのに、その話がなくなったこと。

エリーは目的を失っただけでなく、またしても自分だけが生き延びたことの罪悪感を抱える。

しかも今度はその原因が、もしかすると自分がもっとも信頼しているジョエルにあるのかもしれないという事実。

ジョエルは「進み続ければ戦う目的が見つかる」と言うが、エリーの進む道をより過酷にしたのは、エリーを誰よりも愛するジョエルなのだ。

シーズン1全体の感想

シーズン1全9話、大変よかったです。

最後のジョエルの行動は是か非か、フィクションなら全然アリだと私は思っています。

ジョエルが徹底的に脅威を排除したことが、続編のおもしろさにつながるので。

ゲーム版もそうでしたが、賛否両論あるシナリオを果敢に貫く作品は応援したいです。

人間関係を丁寧に描いているぶん、感染者と戦うシーンが少ないのが気になるといえば気になりますが(ブローター再登場しなかったし)、別の細かな部分でゲームの再現は十分になされているのでドラマ版はこれでいいのかなと思います。

シーズン2も楽しみです。


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