ゲラルトの不器用さと大義。ウィッチャー短編小説「The Bound of Reason」感想(英語版)
※本記事は『ウィッチャー短篇集2 運命の剣』収録の「可能性の限界」を英語版で読んだときの感想です(2022/03/27更新)
ウィッチャー原作小説の2作目『Sword of Destiny』に収録されている6つの短編小説のうち、1つめの短編「The Bound of Reason」のあらすじと感想をまとめた。
ドラゴン退治の話を主軸に、ゲラルトの恋愛下手がほのめかされたり、イェネファーの生涯の望みが語られたりする。
関連記事:ウィッチャー原作小説Sword of Destinyの内容と感想
「The Bound of Reason」のあらすじ
- モンスター退治を終えたゲラルトは、ボルクという騎士と、ゼリカニアの女性戦士テアとヴェアの3人組と知り合う。
- ゲラルトとボルクたちはニーダミル王のドラゴン退治による通行止めに遭い、同じく通行止めで動けなくなっていたダンディリオンと会う。
- ドラゴン退治の参加者にイェネファーがいることを聞いたゲラルトは、ボルクら3人とダンディリオンと共に王の一団に同行する。
- イェネファーは4年前にゲラルトから受けた仕打ちを許すことができず、ゲラルトに冷たく接する。
- 伝説の存在と言われていた黄金のドラゴンが現れ、その圧倒的な強さに王の傭兵団が次々に倒される。
- イェネファーは自分のとある目的のためにドラゴンを倒してほしいとゲラルトに頼む。
これより先はあらすじに書かなかったネタバレに触れつつ、解説や感想を書いていく。
ドラゴン退治に参加したメンバー
どんな人がドラゴン退治に参加していたのかというと、以下のとおり。- 魔術師ドレガレイ
- 騎士デネスルのアイク
- クリンフリッド団のボホルト、ガー、ケネット
- ヤーペン・ジグリンとその仲間のドワーフ
- その他、王の兵士や従者(全部で何十人かいたのではないかと思う)
ヤーペン・ジグリンは、この後の長編小説『ウィッチャーI エルフの血脈』から始まるウィッチャーサーガでゲラルト、シリ、トリスが世話になるドワーフ。
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ドレガレイも『ウィッチャーII 屈辱の刻』でシダリス国のエサイン王に仕える魔法使いとして登場。こちらではゲラルトとの絡みがなかったので私の記憶にはいなかった。
そしてクリンフリッド団は、ウィッチャー3のDLC「血塗られた美酒」のサイドクエスト「ボークレール野生の王国」で登場する。これも私は全く覚えておらず、プレイ動画を探して「あー、あのスキンヘッド集団か」となった。
上記メンバーに加えて、ゲラルト、ボルク、テア、ヴェア、ダンディリオン、イェネファーがドラゴン退治に参加する。
ゲラルトはドラゴン退治に興味はなく、参加理由はイェネファーがいるからというだけ。
ボルクはゲラルトが気に入ったため、ゲラルトに同行する。
テアとヴェアはボルクについていく。
ダンディリオンはドラゴンとの戦いを歌にするため、危険を承知で参加する。「他人から聞いた話でもバラードは作れるが、自分の目で見て作った歌は響きが違うんだ」というのがダンディリオンの矜持。
イェネファーの目的は後述する。
イェネファーはなぜゲラルトに怒っているのか
「The Last Wish」でジンの魔法によって結ばれたゲラルトとイェネファーだが、その後ふたりは別れ、「The Bound of Reason」で4年ぶりの再会を果たす。>>イェネファーとの出会い。ウィッチャー短編小説「The Last Wish」
イェネファーはゲラルトから受けた仕打ちが許せず、ひたすらゲラルトに冷たく接する。
ゲラルトとイェネファーはヴェンガバーグで1年ほど一緒に暮らしていた。
しかしゲラルトはある日の夜、イェネファーが眠っている間に出て行ったきり帰ってこなかったのだという。テーブルにスミレの花を置いて。
イェネファーにしてみれば、朝起きたらゲラルトがいなくなっていたことは商売女と同じ扱いをされたようなもので、プライドをズタズタにされたに等しい。
ましてゲラルトは、イェネファーいわく他のどの男よりも尽くした相手。
イェネファーのお怒りはごもっともである。
4年間音沙汰なかったのに、いきなりドラゴン退治に紛れて会いに来たゲラルトに、イェネファーが冷たいのは仕方ないことだろう。
「The Bound of Reason」の最後の最後にイェネファーはゲラルトを許すのだが、それまでずっとイェネファーはゲラルトに対して厳しい態度を取る。
愛する人への接し方が分からないゲラルト
「The Bound of Reason」でゲラルトはイェネファーのことばかり見ており、「昨日と髪飾りが違う」など、細かいところまでチェックしている。イェネファーとの会話でも、ヨリを戻したそうな雰囲気を漂わせている。
では、なぜ自分からイェネファーのもとを離れたのか。
その理由は語られないので推測するしかないが、おそらくゲラルトにとってイェネファーは初めて愛した女性で、ゲラルトは恋人への接し方どころか、自分の抱いている気持ちが愛だと理解していなかったのだと思う。
ウィッチャーというものは感情がない(そうは見えないという意見はさておき)。
少年の頃にウィッチャーとなり、恋愛感情という概念がなかったのに、突如誰かを慕うという状況に置かれてゲラルトはかなり困惑したのではないか。
どこかのサイトで「ゲラルトは80歳を超えているが、恋愛に関しては初めて恋をしたティーンエイジャーのよう」と書かれていた。まさにそんな感じだ。
ゲラルトはイェネファーのことは好きだし一緒にいたいと思っているが、それが愛だと自覚できていない。自分の思っていることを言葉にできないし、恋人というものにどう接するのか分からない。恋人といると、ひとりでいた時と同じような生活ができない。
そんなもろもろの変化が積み重なり、受け入れられず逃げ出したのではないか、と私は考えた。
長編小説やゲームでゲラルトが数々の女性とお戯れになったことを思い出すと意外だが、とりあえずこの話は長編やゲームより前の話なので。
ちなみに、ゲラルトがイェネファーとの別れ際に置いていったのはスミレ。花言葉は愛であり、スミレ色はイェネファーの瞳の色である。離れはしても、ゲラルトのイェネファーへの気持ちが冷めることはない。
ドラゴンをめぐる人々の思惑とイェネファーの目的
ドラゴン退治のために王のもとに集まった人々だが、その目的は政治的だったりカネ目当てだったりとみんなバラバラだ。特殊なのは魔術師ドレガレイ。この人は絶滅危惧種の擁護者で、いっそ人間がドラゴンにやられて人間がいなくなることを望んでいる。
そしてイェネファーは妊娠できる体になるための薬を作るため、ドラゴンの細胞を手に入れたいと思っている。
女魔術師は魔法によって子宮が変化したため、妊娠できないことになっている。
それでもイェネファーは子供を持つことをあきらめておらず、人生を捧げて妊娠する方法を探している。
魔術師は不妊なのに、なぜそんなに頑張るのか。そう思っていたが、最後の短編「Something More」を読んだところ例外もあるらしく、だからイェネファーはあきらめきれないのかもしれない。
黄金のドラゴンの言葉
話の序盤でゲラルトがボルクに、一般的にドラゴンは緑色で、白いドラゴンはレア、黄金のドラゴンは神話だと話している。存在するはずのない黄金のドラゴンが登場してみんなビックリ、というのはファンタジー小説なので当然の展開。
むしろ驚くべき点は、ウィッチャーの世界における黄金のドラゴンは人間の言葉をしゃべり、さらに何にでも姿を変えられることだ。
ゲラルトたちの前に現れたドラゴンはVillentretenmerthという名前で(長い)、ある人物に姿を変えてずっとゲラルトたちのそばにいたことが最後に判明する。
そのドラゴンはゲラルトに「生きる目的が見つかる」と伝え、イェネファーには「君とウィッチャーはお互いのために存在している。ただ残念だが、君たちからは何も生まれることはない」と伝え、去って行く。
ゲラルトの生きる目的はたぶん後に出会うシリのこと。
イェネファーへの言葉に関しては、イェネファーはゲラルトと一緒にいる運命だが、ふたりの間に子供ができることはない、ということだろう。
ドラゴンの力をもってしても子を持つ願いが叶わないことにイェネファーは落胆するものの、またゲラルトと共に過ごすようになる。
今回、強力なドラゴンがゲラルトたちに手を出さなかったのは、ドラゴンがゲラルトを気に入っていたからだ。
ドラゴンは人々の生活に危険をもたらすから殺すべきだ、と言う者がいる中、ゲラルトは「ドラゴンを危険にさらしているのは人間のほうだからドラゴンを殺すのは道理に合わないし、自分の主義に反する」と常に主張していた。
また、イェネファーに「私のためにドラゴンを倒してくれたら、以前のような関係に戻る」と説得されても断り、決してドラゴンに手を出すことはしなかった。
イェネファーはドラゴンをめぐっての戦闘中、殺されそうになった場面があるが、ドラゴンのおかげで危機を免れている。
もしゲラルトが私欲のために理性を失ってドラゴンを攻撃していたら、ドラゴンはゲラルトやイェネファーの味方はしなかっただろう。
間接的にではあるが、「The Last Wish」に続き、ゲラルトは再びイェネファーの命を救ったことになる。
ゲラルトとイェネファーの心はまだ完全には通っていないが、互いになくてはならない存在なのだ。
ただ、ふたりの関係は次の短編「A Shard of Ice」でまた大変なことになる。
次の記事:三角関係の行方。ウィッチャー短編小説「A Shard of Ice」感想
ドラマで「The Bound of Reason」が扱われた回の感想:【ウィッチャー】S1E6感想。伝説のドラゴンの扱いが残念だった
ゲラルトたちの前に現れたドラゴンはVillentretenmerthという名前で(長い)、ある人物に姿を変えてずっとゲラルトたちのそばにいたことが最後に判明する。
そのドラゴンはゲラルトに「生きる目的が見つかる」と伝え、イェネファーには「君とウィッチャーはお互いのために存在している。ただ残念だが、君たちからは何も生まれることはない」と伝え、去って行く。
ゲラルトの生きる目的はたぶん後に出会うシリのこと。
イェネファーへの言葉に関しては、イェネファーはゲラルトと一緒にいる運命だが、ふたりの間に子供ができることはない、ということだろう。
ドラゴンの力をもってしても子を持つ願いが叶わないことにイェネファーは落胆するものの、またゲラルトと共に過ごすようになる。
今回、強力なドラゴンがゲラルトたちに手を出さなかったのは、ドラゴンがゲラルトを気に入っていたからだ。
ドラゴンは人々の生活に危険をもたらすから殺すべきだ、と言う者がいる中、ゲラルトは「ドラゴンを危険にさらしているのは人間のほうだからドラゴンを殺すのは道理に合わないし、自分の主義に反する」と常に主張していた。
また、イェネファーに「私のためにドラゴンを倒してくれたら、以前のような関係に戻る」と説得されても断り、決してドラゴンに手を出すことはしなかった。
イェネファーはドラゴンをめぐっての戦闘中、殺されそうになった場面があるが、ドラゴンのおかげで危機を免れている。
もしゲラルトが私欲のために理性を失ってドラゴンを攻撃していたら、ドラゴンはゲラルトやイェネファーの味方はしなかっただろう。
間接的にではあるが、「The Last Wish」に続き、ゲラルトは再びイェネファーの命を救ったことになる。
ゲラルトとイェネファーの心はまだ完全には通っていないが、互いになくてはならない存在なのだ。
ただ、ふたりの関係は次の短編「A Shard of Ice」でまた大変なことになる。
次の記事:三角関係の行方。ウィッチャー短編小説「A Shard of Ice」感想
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