映画キングダムにはスピード感が足りない。原作好きの感想
『キングダム』は今一番好きな漫画のひとつ。
戦士の力のぶつかり合いだけでなく、策略で劣勢から逆転勝利をおさめていく予想のつかない展開も魅力的だ。
キングダムの映画版を見た感想は「つまらなくはないが満足でもない」。
ストーリーやキャラクターの再現度はよかったが、見せ場であるはずの戦闘シーンがいまいちだったのだ。
原作好きの一個人として、映画『キングダム』の残念だったところ・よかったところを述べたい。
※映画と原作1~5巻のネタバレを含みます
興味のなかった実写映画を見た理由
まず、私は「原作より実写版がおもしろくなることはない」と考えているので、基本的に漫画のアニメ化・実写化には興味がない。キングダムもアニメは見たことないし、映画も見るつもりはなかった。
だが原作54巻の原泰久さんのロングインタビューを読んで、原さんの映画製作への巡り合わせに感銘を受けた。
「この作者が見てほしいと言うのなら、ファンとして映画も見よう」と思い、劇場に出向くことにした。
不満はスピード感の足りない戦闘シーン
私の思う原作キングダムのよさはスピード感だ。強そうな敵が出てきてもサクサクと勝敗が決まるのが爽快で、初めて原作を読んだときに印象的だったことでもある。
しかし映画の戦闘シーンはスピーディーさに欠ける演出が目立った。
会話、回想、別のキャラのカットインが割り込んだり、黙って剣を構えている時間が長かったりして、戦闘がしょっちゅう中断されるのだ。
アクション自体は迫力があって引き込まれるのに、演出が入り込んで緊張感が削がれてしまうのは残念だった。
特に気になったのは、王宮で信が左慈に「夢を見て何が悪い」と語り始めるところ。
戦いの真っ最中に、スピーチのようにゆっくりしゃべるのだ。
左慈もそのあいだに攻撃すればいいものを、おとなしくしている。いくらなんでも不自然すぎる。
映画用にわざわざ原作にない会話を入れたようだが、戦いのテンポの悪さを助長しただけに思う。
8.左慈との戦い。原作の盛り上がりポイントである「舌戦」を入れるため、この戦いのシーンを改編しました。「夢」というテーマ、言葉での斬り合い。原作ファンにもそうでない方にも、「これぞキングダム」を感じてほしくて作ったシーンです。ぜひじっくり見てもらいたいです!— キングダム公式アカウント (@kingdom_yj) 2019年4月29日
夢を語るのは、「天下の大将軍になる男だ」って王騎に言うだけじゃダメだったのかな。
全体的に戦闘をもっとテンポよくまとめていれば、キャラをもっと掘り下げるセリフを入れられたはずだ。
バジオウがしゃべるシーンとか…はさておき、ランカイに挑む信を見た壁が「こいつまじで大将軍になるかも」と予感して、信に「もっと剣を信じろ」って言うシーンは入れてほしかった。
これは自己流で剣を振るってきた信が一皮むける場面であり、いずれ将軍になる信の素質を予見している場面でもあるので、けっこう大事なシーンだと思うのだが。
ちなみに原作のこの会話は、バジオウとタジフがランカイの相手をしている最中なので、戦闘は止まらず自然な成り行きになっている。
原作好きとして満足したのはキャラの再現
映画で満足したところを完全に自分の好みで挙げると、王騎将軍の再現度が高さだ。もちろん見た目はだいぶマイルドになったが、口調やたたずまいは本当にイメージどおりで感激した。
原作を知らない人は王騎がオネエ調なのが気になるようだが、あれは原作どおりなのだ。
なよやかに話すのにめっちゃムキムキでめっちゃ強いところが最高なのだ。
そして王騎に負けないくらい完璧だったのが騰の「ハ!」である。
王騎に何か言われるたびに発せられる「ハ!」のなんと鮮やかなことか。あんなにハッキリ発音されたハ行は初めて聞いた。
以下、その他のキャラクターの感想を簡単に。
- 信:空気の読めなさが際立っていて信らしかった
- 政・漂:目つきや表情がきっちり分けられていてちゃんと別人になっている。兵を鼓舞するシーンがかっこよかった
- 河了貂:原作だとこのころの貂はガキんちょって感じなので、ちょっと中の人がかわいすぎる
- 昌文君:リアクションの大きさとかいい感じだった
- 壁:イケメンすぎてしばらく壁だと気づかなかった
- 楊端和:山の王にふさわしい重厚感のあるしゃべり方がステキ。にらまれたい
- バジオウ:信を引き立てるためなのか、あんまり強そうじゃなかった
- 成蟜:ゲスくてよかった
続編に期待
キングダム映画版の感想を一言で言うと「よかったけどスピード感が足りない」だ。戦闘シーンのモタモタ感がずっと気になったが、キャラクターの再現が見事だったので多少の不満はもみ消されている。
ストーリーは初めてキングダムを見る人にも分かりやすくまとまっていたので、これを機に漫画版を読む人が増えたらうれしい。
辛口な感想を書いてはいるが、続編は大歓迎だ。
本作のヒットを受けて予算が増えれば、飾りも同然だった8万の兵士が戦場に出るシーンが見られるかもしれない。アクションも洗練される可能性がある。
原作と同じくらい、とまでは言えないが、映画版の今後にも期待したい。